2023年 05月 01日

扶養控除申告書も電子化が可能!年末調整を簡単にするならペーパーレスを推奨

多くの会社員は年末になると、給与の扶養控除を受けるために年末調整の扶養控除申告書を準備します。従来は紙で提出する必要がありましたが、令和2年度から電子化に対応したことで、Webからも提出できるようになりました。 この記事では、扶養控除申告書の電子化で発生するメリットと、電子での控除証明利用の流れを解説します。記事の後半では、電子取得可能な控除証明の例も紹介しています。まだ社内で電子化が進んでいないという方は、ぜひ参考にしてください。

扶養控除申告書とは

そもそも扶養控除申告書とは、どのような書類なのでしょうか?会社から毎年年末調整の時期に書くように指示されるものの、何のために記入する書類なのか完璧に理解している方は少ないでしょう。 扶養控除申告書とは簡単にいうと、給与からさまざまな控除を受けて、節税に役立てるための書類です。次の項目から詳しく解説していきましょう。

提出による効果

扶養控除申告書を提出すると、以下2つの効果 があります。

・納める所得税が少なくなる
・年末調整をしてもらえる

まず、毎月給与から差し引かれる所得税額が少なくなるのがメリットです。所得税の過不足を調整する作業を年末調整といい、自分で行わなくても会社側が年末調整を行ってもらえるので、最小限の手間で済みます。

提出対象者

扶養控除申告書の提出対象者は、正社員だけではありません。パートやアルバイトといった、給与をもらっている方全員が対象です。

会社側では、源泉徴収の有無にかかわらず税金を納めなければペナルティを取られてしまいますので、パートの方にも必ず「扶養控除申告書」を提出してもらいましょう。

年末調整を行わない方は確定申告時に提出

扶養控除申告書は、同時に2ヶ所に提出できません。本業と副業など、2ヶ所以上の勤務先で働いている場合は、年末調整を行わず、各従業員が確定申告をします。なお、その際に扶養控除申告書を提出します。

1年の途中で退職して次の職場へ転職した場合は、両方の会社に扶養控除申告書を提出可能です。あくまで、同時に2ヶ所の勤務先に提出できないだけで、時期が異なれば年末調整の際に扶養控除申告書を提出できます。

扶養控除申告書の電子化で発生するメリット

ここでは、扶養控除申告書の電子化で発生する2つのメリット を紹介します。電子化を検討している方や、電子化のプレゼンをしたい方は、ぜひ参考にしてください。

・作業時間の削減
・書類紛失の心配がいらない

作業時間の削減

▼従来の年末調整手続きと電子化した年末調整手続きの違い

手順従来の年末調整手続き電子化した場合の年末調整手続き
従業員:保険会社などから控除証明書をはじめとした書類を紙媒体で受領従業員:保険会社などから控除証明書をはじめとした書類を電子データで受領
従業員:各申告書に必要な数字を手書きで記入従業員:ソフトウェアを使って各申告書に必要なデータを入力、自動計算
従業員:作成した申告書を含む必要書類を勤務先に郵送または対面で提出従業員:入力したデータを含む必要書類を勤務先へ送信
勤務先:提出された書類のチェック、控除額の計算などを行い、年税額を計算勤務先:提出されたデータをソフトウェアにインポートして、年税額を計算

扶養控除申告書を紙媒体で用意する際、ミスや紛失によって作業時間を大きくロスしてしまう可能性があります。扶養控除申告書を電子化すると、入力・修正が簡単になり、作業時間を削減できます。

情報をデータ化すると、書類の印刷、郵送といった手間がかかりません。電子ファイルを準備して配布するだけで済むので、会社側も準備の時間を大きく減らせます。

給与システムによっては、扶養控除申告書と連動できる場合があります。連動させると、給与を自動入力して、従業員の入力する手間と、担当者が確認する手間を省けるため、ほかの作業に時間を使える点もメリットのひとつです。

また、入力データのうち、名前や生年月日、住所などは翌年度以降も使いまわせることが多く、時間短縮につながる場合があります。

従来の紙媒体の扶養控除申告書では、提出・確認・修正の3つの工程を何回か繰り返す必要がありました。しかし、電子化することでさまざまな入力データに対し、自動チェック機能を活用することにより、扶養控除申告書の内容を確認する担当者の負担を大きく軽減できます。

書類紛失の心配がいらない

紙媒体の扶養控除申告書を準備するとなると、書類紛失のリスクが付きまといます。しかし電子化した場合は、パソコンの中やUSBメモリ、クラウド上、メールなど、さまざまな場所に保存しておけるため、移動時に紛失することがなく、書類を再発行する手間を省けます。

また、会社側としても、提出された書類のコピーを保管する手間とスペースを省けます。何か修正事項があった際に、時間と場所を問わずオンラインでやりとりできるのは大きなメリットでしょう。

電子での控除証明利用の流れ

扶養控除申告書を電子化するメリットがわかったところで、どのような手順で電子化を進めるのか気になった方は多いのではないでしょうか?ここでは、デジタルでの控除証明利用の流れ を解説します。

・企業側:従業員へ電子化の告知
┗年末調整電子化は従業員から同意を得る必要なし
・企業側:年末調整電子化システムの導入
┗給与システムと連動したサービスを推奨
・従業員側:控除証明の取得手続きの準備
┗国税庁ホームページなどから控除申告書作成
┗年調ソフトは申告書作成に特化
┗加入している保険会社から取得
・従業員側:雇用先の指示に従ってシステムを導入

企業側:従業員へ電子化の告知

企業で扶養控除申告書を電子化することが決定したら、まずは企業側から従業員へ電子化の告知を行いましょう。

これまで扶養控除申告書を紙媒体で用意してきた企業で、何の告知もせずに電子化してしまうと、データ入力用のパソコン、スマートフォンがない、入力の仕方がまったくわからないといったトラブルに発展する可能性があります。

従業員はマイナンバーカードの取得や、保険会社から控除証明書をはじめとしたデータを交付してもらうために手続き・準備の時間が必要です。遅くとも年末調整の2ヶ月前までを目安に周知するのがよいでしょう。

年末調整電子化は従業員から同意を得る必要なし

給与明細の電子化と違い、年末調整や控除証明書を電子化するにあたって、従業員から同意を得る必要はありません。あくまで、従業員の混乱を防ぐために、事前に周知を行います。

従業員から質問や反対意見があったときのために、まずは電子化を推進する担当者の方が電子化の仕組みや必要な手続き、メリットを入念に把握しておきましょう。また、以前は承認申請書を税務署へ提出する必要がありましたが、現在は不要です。

企業側:年末調整電子化システムの導入

周知の次に企業側が行うべき作業は、年末調整電子化システムの導入です。年末調整電子化システムとは、年末調整の計算、源泉徴収の作成、法定調書の準備といった、一連の作業を効率化してくれるシステムのことです。

給与システムと連動したサービスを推奨

さまざまな会社が年末調整電子化システムをリリースしているため、どれを選べばよいのか悩んではいませんか。ポイントは、給与システムと連動したサービスを選ぶことです。
給与システムと連動すると、従業員がデータを入力せずとも、自動で毎月の給与を反映したデータが作成されます。給与が正しければ、人為的なミスが発生しにくくなるため、修正作業が少なくなり、非常に効率的です。

使用する給与システムによっては、ソフトウェアと連動させるための改修が必要な場合があるので、システム導入時に必ず給与システムも確認しておきましょう。

また、システムにヘルプ・ガイド機能が付いていると、従業員が書き方に悩んだ際、スピーディーに疑問を解決しやすくなります。従来の申告方法では、有識者に確認する手間がかかりましたが、基本的な疑問であれば、ヘルプ・ガイド機能がすぐに答えを導き出してくれます。

従業員側:控除証明の取得手続きの準備

次に、従業員側の手続きを解説します。まずは、控除証明の取得手続きの準備を行いましょう。

国税庁ホームページなどから控除申告書作成

電子媒体で控除申告書を作成するにはどうすればよいのか、悩む方は多いですが、国税庁ホームページなどで申告書の作成ができます。

国税庁のホームページでは、作成の流れや入力例が用意してあり、初めて書類を作成する方でも利用しやすい作りになっています。

年調ソフトは申告書作成に特化

国税庁が提供している「年調ソフト」は、従業員がスムーズに申告書を作成できるように整備されたソフトウェアです。初めて利用する方でも、ガイダンスに沿っていけば書類を作成できるように作られていますが、企業側からすると不便な面があります。

たとえば、どの従業員がどこまで申告作業を終わらせたのか進捗を管理・確認することができません。いざ進捗管理をしようと思った場合、MicrosoftのExcelや、Googleスプレッドシートといった年、調ソフトとは別のツールが必要です。

いっぽうで、民間企業が提供している年末調整電子化システムでは、申告書の作成から従業員の作業進捗管理まで、幅広く対応しています。通常業務に追われて給与との整合性チェックや修正点の確認まで手が回らないといった場合でも、変更点の表示があるほか、自動で給与システムから正しい数値を取得するため、効率よく作業できます。

年末調整の効率化にお役立ていただける「年調ヘルパー」をご紹介します。

加入している保険会社から取得

加入中の保険会社のホームページから、控除証明書をはじめとしたデータをダウンロードしましょう。

保険会社によって取得方法が異なるため、電子化を推進する担当者は、会社で加入している保険会社へ取得方法の確認をおすすめします。従業員が混乱した際に、スムーズに次のステップへ進められます。

なお、マイナポータルと呼ばれる行政手続のオンライン窓口を利用することで、複数の証明書の一括取得が可能です。

従業員側:雇用先の指示に従ってシステムを導入

控除証明の取得手続きが済んだら、会社の指示に従って、年末調整電子化システムを導入しましょう。さまざまな年末調整電子化システムが存在するため、誤って別のシステムをインストールしないよう、会社側で導入手順書を作成することをおすすめします。

ほかにも電子取得可能な控除証明の例

電子取得可能な控除証明は、扶養控除申告書以外にもいくつかあります。ここでは、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)と配偶者控除について解説するので、ぜひ参考にしてください。

住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)

住宅ローン控除 (住宅借入金等特別控除)とは、住宅ローンを使用して物件・敷地を購入した場合に、一定の金額が所得税や住民税から控除される制度のことです。年末時点の住宅ローンの残高0.7%が入居時から最大13年間控除されます。

ただし、控除の適用を受けるには以下の条件を満たす必要があります。
・初年度に確定申告をする
・物件を取得してから6ヶ月以内に本人が入居する
・住宅ローンの返済期間が10年以上(親、身内ローンを除く)
・登記簿上の床面積50㎡以上かつ、面積の半分以上が自分の居住用である
・中古住宅の場合、耐火建築は築後25年以内である(耐火建築物以外は、築後20年以内である)
・合計所得金額が2,000万円以下である(控除を受ける年分)

確定書類の際は、以下の書類が必要になるので準備しておきましょう。

・住民票の写し
・建築確認通知書の写し
・売買契約書、建築工事請負契約書、増改築等工事証明書などの写し
・家屋の登記事項証明書
・借入金等の年末残高等証明書
・源泉徴収票(給与所得者の場合)

また、入居時期や物件の種類によって控除額や借入限度額に違いがあります。以下の表 にまとめましたので、ぜひ参考にしてください。

▼令和4年〜5年末までに新築物件に入居した場合

物件の種類控除率控除期間年間の最大控除額借入限度額
長期優良住宅
低炭素住宅
0.7%13年35万円5,000万円
ZEH水準
省エネ住宅
0.7%13年31.5万円4,500万円
省エネ基準
適合住宅
0.7%13年28万円3,000万円
その他0.7%13年21万円2,000万円

▼令和6年〜7年末までに新築物件に入居した場合

物件の種類控除率控除期間年間の最大控除額借入限度額
長期優良住宅
低炭素住宅
0.7%13年31.5万円4,500万円
ZEH水準
省エネ住宅
0.7%13年24.5万円3,500万円
省エネ基準
適合住宅
0.7%13年21万円3,000万円
その他0.7%10年14万円2,000万円

配偶者控除

配偶者控除とは、一定の条件を満たした配偶者がいる場合に、所得控除を受けられる制度のことです。控除対象となる配偶者は、控除を受ける年の12月31日時点で、以下4つの条件すべてに該当する人でなければなりません。

・民法上の配偶者に該当する方(内縁関係の方は該当しない)
・納税者と生計をともにしていること(同居の有無は問わない)
・白色申告者の事業専従者ではない、または青色申告の事業専従者として、年間を通して給与の支払いを一度も受けていない

配偶者控除の金額は、納税者本人の所得や配偶者の年齢によって、以下のように変わります。

納税者本人の合計所得金額
(控除を受ける本人)
一般の配偶者の控除額老人控除対象配偶者の控除額
(控除を受ける年の12月31日時点で
 70歳以上)
900万円以下38万円48万円
900万超950万円以下26万円32万円
950万円超1,000万円以下13万円16万円

公的書類の電子化は国からも推奨されている

インターネットが普及した現代では、目まぐるしい技術革新が起こっています。時代に合わせて業務のやり方を変えなければ、淘汰されてしまうでしょう。

実は公的書類の電子化は国も推奨しており、業務効率化につながります。これまで対面や郵送で提出していた書類が、メールやWebへのアップロードで済むようになるほか、複数の書類を一括で取得できるようになるといったメリットがあるからです。

未来のことを考えるなら電子化の導入を

将来的に公務組織の高齢化や、手続きが複雑化することによって、完成まで時間がかかり、紛失リスクやミスの発生しやすい手作業は非効率になっていくことが予想されます。

手続きを簡潔に、自動化できる電子化システムを利用することで、業務効率が大幅に改善されます。未来のことを考えるのであれば、電子化の導入がおすすめでしょう。

まとめ

年末調整の際に必要な扶養控除申告書は、従来紙媒体で提出するものでしたが、令和2年度から電子データでの提出が可能になりました。提出書類の電子化は、企業側にも従業員側にも大きなメリットです。

給与システムと連動した年末調整電子化システムを導入すると、以下のようなメリットが生まれます。

企業側のメリット・従業員ごとの作業進捗がわかる
・修正点がわかるため、差し戻し、修正を効率的に行える
・外回りの多い営業社員やテレワークの従業員などが多い場合でもWebでやりとりができる
・税務調査にも対応している
従業員側のメリット・金額の計算が自動化されるため、入力ミスを減らせる
・氏名や生年月日、住所といった毎年変わらない項目を毎年使いまわせる
・書き方がわからない場合、ガイドラインでスムーズに疑問を解決できる
・時間と場所を選ばない

公的書類の電子化は国からも推奨されています。電子化を検討している方は、年末調整電子化システムの導入をおすすめします。