【令和7年・年末調整】2025年の変更点を完全解説――基礎控除の見直し/給与所得控除65万円/特定親族特別控除/住宅ローン控除の「調書方式」

本稿は国税庁・財務省が公表する令和7年度税制改正資料等に基づき作成しています。制度の最終確認は必ず最新の公式情報をご参照ください。実務上の判断は所属税務署・顧問専門家とご確認ください。

この記事でわかること

施行日:原則、2025年(令和7年)12月1日施行。12月以後の源泉徴収事務や年末調整から取扱いが変わります。

変更点の全体像

  1. 基礎控除の見直し……合計所得金額に応じて最大95万円(R7・R8特例)の段階制。2,350万円超は従前の逓減区分(48/32/16/0)を維持。
  2. 給与所得控除の下限引上げ……55万円→65万円(収入190万円以下の範囲で影響)。
  3. 扶養親族等の所得要件の緩和……48万円→58万円、勤労学生は75万円→85万円
  4. 特定親族特別控除の新設……19歳以上23歳未満の親族を対象に最大63万円の所得控除。専用の申告書が追加。
  5. 住宅ローン控除の「調書方式」……金融機関等からのデータ連携により証明書提出が不要となるケースが拡大(当面は併用)。

11月以前の給与11月までの源泉徴収事務は従前どおり(切替の実務注意点を本文で詳説)。


目次

  1. はじめに――令和7年の年末調整は「12月から大きく変わる」

  2. 変更点① 基礎控除の見直し(最大95万円・段階制)

  3. 変更点② 給与所得控除の下限引上げ(65万円)

  4. 変更点③ 扶養親族等の所得要件の緩和(58万円・勤労学生85万円)

  5. 変更点④ 特定親族特別控除(最大63万円)と実務の要点

  6. 変更点⑤ 住宅ローン控除の「調書方式」――証明書方式との違いと併用期の運用

  7. 施行日と切替実務――「12月以後」の源泉徴収事務/「11月まで」の取扱い年末調整・実務スケジュール(10月~12月)

  8. 申告書・提出書類の総点検(R7版)

  9. よくある質問(FAQ)

  10. ケース別ミニシミュレーション(控除の当たり方の考え方)

  11. まとめ――今年の「落とし穴」と対策

    • 付録A:用語集(R7年版)

    • 付録B:改正前後の比較(一覧・テキスト表)

    • 付録C:社内FAQテンプレ


1.はじめに――令和7年の年末調整は「12月から大きく変わる」

2025年(令和7年)の年末調整は、施行日が12月1日という点が最大の特徴です。これにより、12月以後に行う年末調整12月支給分の給与に対する源泉徴収事務から、新ルールが反映されます(11月までの源泉事務は従前どおり)。

本稿では、法律・省令・国税庁パンフレットに基づいて、改正点の正確な理解と、企業の実務に必要な準備・社内周知・システム対応の観点を整理します。あわせて、人事・労務担当者が現場で説明しやすいように、社内FAQの叩き台も掲載しています。

2.変更点① 基礎控除の見直し(最大95万円・段階制)

2-1. ポイント

  • R7・R8年分の特例として、合計所得金額に応じた段階的な基礎控除(最大95万円)が適用されます。
  • 合計所得金額2,350万円を超える場合は、従前どおりの逓減区分(48/32/16/0)に変更はありません

2-2. 基礎控除の早見(R7・R8特例)

  • 132万円以下95万円
  • 132万円超~336万円以下88万円
  • 336万円超~489万円以下68万円
  • 489万円超~655万円以下63万円
  • 655万円超~2,350万円以下58万円
  • 2,350万円超~従前どおり(2,400万円以下:48万円/2,450万円以下:32万円/2,500万円以下:16万円/2,500万円超:適用なし)

実務上のポイント:年末調整システムの控除テーブル(R7版)が正しく更新されているか、テスト計算で必ず確認しましょう。高額所得者や役員の控除額が従前と異なるケースに留意してください。

2-3. よくあるつまずき

  • 世帯収入ではなく本人の合計所得金額で判定します。
  • 非居住者は特例の加算がなく58万円となる取り扱いに注意してください(居住者のみ加算)。

3.変更点② 給与所得控除の下限引上げ(65万円)

3-1. ポイント

  • 最低保障額55万円→65万円に。
  • 影響が出るのは、主に年収190万円以下の層。給与所得控除後の金額表・源泉徴収税額表(R8以後)も連動して改正されています。

3-2. 実務への影響

  • パート・短時間勤務者を多く雇用する事業所では、課税所得の減少に伴い年末調整の還付額が増える可能性があります。
  • 社内FAQ・周知文では、「給与所得控除がアップするため、課税所得が小さくなる」という仕組みの説明を添えると問い合わせが減ります。

注意:いわゆる「非課税ライン」は各人の社会保険料控除・基礎控除等により異なるため、一律の年収額で断定しないこと。社内連絡では『概算の目安であり個々に異なる』と明記しましょう。

4.変更点③ 扶養親族等の所得要件の緩和(58万円/勤労学生85万円)

4-1. ポイント

  • 扶養親族・同一生計配偶者・ひとり親の子の所得要件が48万円→58万円
  • 配偶者特別控除の対象となる配偶者:58万円超~133万円以下(収入が給与のみの目安:123万円超~201万5,999円以下)。
  • 勤労学生控除の上限が75万円→85万円に。

4-2. 実務の見どころ

  • 扶養控除等(異動)申告書の判定が複雑化。年末の見込み実績の差異に注意が必要です。
  • 学生アルバイトの所得見積り誤り(交通費精算・源泉徴収の有無など)を防ぐため、早めの確認誤り修正のフローを整備しておくとよいでしょう。

5.変更点④ 特定親族特別控除(最大63万円)と実務の要点

5-1. 制度の骨子

  • 対象:19歳以上23歳未満の親族(配偶者・青色/白色事業専従者を除く)で、合計所得金額58万円超~123万円以下
  • 控除額:最大63万円(9段階)。親族の所得が低いほど控除額が大きい仕組み。
  • 申告手続:年末調整で適用するには、新設された「給与所得者の特定親族特別控除申告書」の提出が必要。

5-2. 控除額の段階イメージ(抜粋)

  • 58万円超~85万円以下:63万円
  • 85万円超~90万円以下:61万円
  • 90万円超~95万円以下:51万円
  • 95万円超~100万円以下:41万円
  • ……(以降、3万円まで逓減)

実務上のポイント:扶養控除(特定扶養親族:年齢19~22歳・所得58万円以下)との使い分けに留意。所得58万円以下なら扶養控除(63万円)58万円超なら特定親族特別控除(最大63万円)という関係です。

6.変更点⑤ 住宅ローン控除の「調書方式」――証明書方式との違いと併用期の運用

6-1. 概要

  • 金融機関等が税務当局に年末残高情報を直接連携(電子データ)。
  • 該当者は、従来の『残高証明書』の提出が不要(各自マイナポータルから年末残高を確認)。
  • 当面は調書方式・証明書方式の併用。従業員ごとに対応方式の確認が必須

6-2. 会社側の運用ポイント

  • 方式の確認:対象従業員の方式(調書/証明書)をどのように把握するのかを定めておきましょう。
  • システム対応住宅ローン控除情報の取込計算ロジックをR7仕様に。
  • 周知文テンプレ:提出物が減る人・変わらない人を明確に案内しておくとよいでしょう。

7.施行日と切替実務――「12月以後」と「11月まで」

  • 施行日:2025年12月1日
  • 12月以後の年末調整・源泉事務:本改正の取扱いを適用。
  • 11月までの源泉事務変更なし(旧取扱い)。

実務上のポイント:途中退職・休職・海外赴任などで11/30以前に年内最後の給与となるケースは、従前の取扱いで処理します。年の中途退職者は原則、年末調整の対象外(所基通190-1の5類型〔非居住者化・死亡・著しい障害・12月分受領後退職・年間給与123万円以下で他社給与見込みなし〕に該当する場合のみ中途で年末調整)。対象外の場合は源泉徴収票を交付し、翌年の確定申告による精算をご案内してください(社内FAQを本文に掲載)。

8.年末調整・実務スケジュール例(10月~12月)

10月:システム更新の適用確認/控除テーブル差替え/テスト計算。

11月:申告書配布・回収(基礎控除/配偶者(特別)控除/特定親族特別控除新設)/住宅ローン控除の方式確認/社内説明会。

12月:年末調整本番(改正内容を適用)/イレギュラー対応(従前の取扱い処理・追加資料回収)。

9.申告書・提出書類の総点検(R7版)

給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者(特別)控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書給与所得者の特定親族特別控除申告書新設

給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(R8以後「源泉控除対象親族」の記載欄に注意)

住宅借入金等特別控除申告書:調書方式の対象者は残高証明書提出不要

10.よくある質問(FAQ)

Q1:11月までに退職(12月の給与支給なし)した従業員は、新制度で年末調整しますか?

  • A原則、退職者は年末調整の対象外です(年の中途で行う年末調整は、所基通190-1の5類型〔非居住者化・死亡・著しい障害・12月支給分受領後退職・年間給与123万円以下で他社給与見込みなし〕に限定)。上記に該当しない場合は、会社は年末調整を行わず源泉徴収票を交付し、本人が翌年の確定申告で最終税額(令和7年改正後の控除を含む)を確定します。なお、「12月に他社給与がない」ことのみでは年末調整実施の要件とはなりません。

Q2:基礎控除は誰でも95万円になりますか?

  • A:いいえ。最大95万円が適用されるのは合計所得金額132万円以下の場合で、段階的に逓減します。2,350万円超は従前の逓減区分に変更ありません。

Q3:配偶者特別控除の「58万~133万円」って年収のこと?

  • A合計所得金額です。収入が給与のみの場合は、収入ベースの目安123万円超~201万5,999円以下となります。

Q4:住宅ローン控除は、今年から全員が調書方式になりますか?

  • A:いいえ。当面は併用です。従業員ごとに方式を確認し、案内・システム設定を切り分けてください。

Q5:学生アルバイトの家族は、扶養控除と特定親族特別控除のどちらを使う?

  • A合計所得金額58万円以下なら扶養控除(特定扶養:63万円)58万円超~123万円以下なら特定親族特別控除(最大63万円)の対象です。

11.ケース別ミニシミュレーション(控除の当たり方の考え方)

下記は控除の適用関係の考え方を示すもので、個人の社会保険料控除・各種控除により最終税額は異なります。正確な金額は個別に試算してください。

  • ケースA(単身/年収180万円/給与のみ):給与所得控除の下限65万円適用→基礎控除58万円(所得水準により段階)→課税所得は従前より小さくなる方向。
  • ケースB(配偶者の収入が給与のみで150万円):配偶者の合計所得金額配偶者特別控除の適用域に入る(目安:収入123万超~201.5万以下)。
  • ケースC(子19歳・給与収入150万円):子の合計所得金額58万超~123万以下に収まれば特定親族特別控除(逓減)を検討。一方、58万円以下であれば扶養控除(特定扶養)

12.まとめ――今年の「落とし穴」と対策

  • 12月施行のため、11月までの処理は従前どおり。12月支給予定があれば11月以前であっても、12月施行後と仮定して年末調整しても差し支えはありません。
  • 新設の申告書(特定親族特別控除)と住宅ローン調書方式は、事前に内容をしっかり把握しておく。
  • 「年収で断定しない」――合計所得金額・控除の組合せで結果が変わることを、社内文書に明記する。

補足:当社の年末調整支援サービス「年調ヘルパー」は、R7改正対応の控除判定ロジック書式生成を搭載。従業員は質問に沿って回答するだけで必要書類が整い、担当者は不備チェックと最終確認に集中できます。

付録A:用語集(R7年版)

  • 合計所得金額:その年の各種所得金額の合計額(損益通算・損失繰越控除適用前)。
  • 特定扶養親族:年齢19歳以上23歳未満の扶養親族(所得要件58万円以下)。
  • 源泉控除対象親族:R8以後、源泉徴収事務上でカウント対象となる親族(控除対象扶養親族および所得100万円以下の特定親族)。
  • 調書方式:住宅ローン控除の適用に際し、金融機関等が税務当局に年末残高情報を提供する方式。従来方式(証明書方式)と併用。

本稿は、年末調整(令和7年)に関する最新の制度変更点を実務視点でまとめたものです。引用元の最終版が更新される場合があります。社内規程・就業規則・給与システムの設定と合わせて、最新の国税庁資料をご確認ください。

付録B:改正前後の比較(一覧・テキスト表)

基礎控除(居住者)

  • 改正前(R6以前):一律48万円(2,400万超は32万/2,450万超16万/2,500万超0)
  • 改正後(R7・R8特例):132万以下95万、132万超~336万以下88万、336万超~489万以下68万、489万超~655万以下63万、655万超~2,350万以下58万、2,350万超の逓減(48/32/16/0)は従前どおり

給与所得控除(改正された範囲)

  • 下限:55万円→65万円(収入190万円以下のレンジ)
  • 190万円超の算式は従前どおり(R7分以後の関連表を使用)

扶養親族等の所得要件

  • 48万円→58万円(配偶者・ひとり親の子を含む)
  • 勤労学生:75万円→85万円
  • 配偶者特別控除対象となる配偶者:58万円超~133万円以下(給与収入のみの目安:123万円超~201万5,999円以下)

新設:特定親族特別控除

  • 対象:19歳以上23歳未満・合計所得金額58万円超~123万円以下
  • 控除額:最大63万円(9段階)――58万超~85万以下:63万/…/120万超~123万以下:3万
  • 申告:年末調整で適用するには「給与所得者の特定親族特別控除申告書」が必要

住宅ローン控除

  • 証明書方式+調書方式(併用)/金融機関→税務当局への年末残高情報連携により提出書類が簡素化

付録C:社内FAQテンプレ

Q. 年末調整は何が変わりますか?

 A. 基礎控除の段階制(最大95万円)、給与所得控除の下限65万円、扶養要件の58万円化、特定親族特別控除の新設、住宅ローン控除の調書方式導入です(12/1施行)。

Q. 「年収〇円で非課税」と断定できますか?

 A. できません。社会保険料控除や各種控除の有無で異なります。概算は社内ツールで試算します。

Q. 学生アルバイトは扶養控除or特定親族特別控除どちら?

 A. 合計所得金額58万円以下なら扶養控除(特定扶養)、58万円超~123万円以下なら特定親族特別控除です。

Q. 11月までに休職・海外赴任で年内給与が終了した場合は?

 A. 原則、年末調整は「その年の最後に給与を支払うとき」に行います。 したがって、休職や海外赴任のため12月以後の給与支給がない場合でも、年内に給与支給があるなら、その最後の給与支給時(例:11月給与)に年末調整を行います。
ただし、令和7年の源泉徴収事務の改正(扶養要件58万円化・特定親族特別控除等)は「12月1日以後に支払う給与」および「12月に行う年末調整」から適用されます。よって最後の給与が11月以前の場合、その年末調整には改正内容は反映されません。改正を反映したい場合は、翌年の確定申告で精算します。
なお、海外赴任で非居住者となる場合は、年の中途で行う年末調整の対象(所基通190-1の類型)に該当するため、出国時年末調整を行います(出国時が12/1以後なら改正後、11/30以前なら従前の取扱い)。その後の源泉徴収は非居住者の取扱いに従います。

Q. 住宅ローン控除の提出物は?

 A. 控除証明書と残高証明書です。ただし調書方式対象者は残高証明書の提出が不要です。

 


 

 

当社が提供する年末調整支援サービス「年調ヘルパー」は、従業員が画面上で「はい」「いいえ」と答えていくだけで、最新の税制改正に対応した必要書類を自動的に作成できる仕組みを備えています。改正内容を従業員自身が正しく理解していなくても、システムが判定・ガイドするため、人事担当者は提出書類の不備チェックや改正内容の説明に追われることが大幅に減ります。

改正のたびに業務フローや説明資料を一から整備する必要もなくなり、確認作業の負担軽減と業務効率化を同時に実現できます。令和7年の年末調整を安心して迎えるために、ぜひ「年調ヘルパー」の導入をご検討ください。