年末調整も電子化されると耳にしたことがありませんか?しかし電子化といってもどのように変わるのか、メリットがあるのか、また電子化を導入しようとしてもどのサービスがよいのかイメージできない、という担当の方も多いのではないでしょうか。 今回は、年末調整電子化のメリットや電子化を認められている書類一式、年末調整を電子化する具体的な方法、年末調整電子化サービスの選び方のポイントについて、詳しく解説します。
年末調整の電子化でなにが変わる?
平成30年度の税制改正されたことにより、令和2年度分の年末調整から、生命保険料控除・地震保険料控除・住宅借入金等特別控除などの控除証明書を、従業員が勤務先に電子データで提出できるようになりました。 従来では紙の控除証明書を提出していましたが、紙媒体は紛失のリスクがあるほか、手計算で控除額の計算が必要だったため、計算ミスなどが問題となっていました。デジタル化すればそのような手間がなくなり、自動的にデータ管理することができるようになります。
電子化は義務ではないが負担軽減に効果的
控除証明書のデジタル提出は義務ではありませんが、雇用側も従業員側も大幅に負担が軽減します。 たとえば、従業員が控除証明書などを記載、提出する手続きがすべてオンライン上で行われるので、雇用側の担当者が書き方などを丁寧にサポート、チェックする手間が省けます。 紙で管理しないので、担当者が書類を配布したり保管したりする業務がなくなります。給与システムに税金計算を反映させる際も、データをアップロードするだけで自動的に支払うべき税金が算出されるようになります。 従業員は、控除証明書をデータとして保管しておけば、自宅からでも会社に提出できます。また、万が一控除証明書をなくしてしまったら保険会社などに再発行を依頼しないといけませんが、電子化されるとそのような手間がなくなります。
年末調整電子化のメリット
年末調整を電子化すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは雇用側と従業員側に分けて、お互いの立場で受けられるメリットについて解説します。メリットをしっかりとおさえて、年末調整電子化を検討してみてください。
雇用側
年末調整を電子化することで、雇用側の業務や手間がかなり少なくなり、従業員の書類を保管するスペースが不要になります。具体的に、どのような作業が効率化されるのか紹介します。
・控除額の検算事務が不要
年末調整を電子化すると、従業員は年末調整ソフトを使うことで控除額が自動計算されます。そうなれば、保険料控除申告書などに記載する控除額を従業員が検算する必要がなくなります。
・書類確認作業をカット
従業員が年末調整ソフトに控除証明書などのデータをうつすことで、自動的に控除証明書の内容が入力されます。 紙での管理は、従業員が会社に提出した控除証明書と申告内容とが一致しているかどうか、目視での確認が必要でした。しかし、年末調整を電子化すれば、雇用側の担当者がひとつひとつ確認する作業が不要になります。
・書類保管の必要なし
年末調整を電子化すれば、すべてインターネット上でデジタル化されるため、書類を保管することがなくなるでしょう。 全社員の書類を保管・管理するにはかなりの労力がかかりますが、電子化すればデータだけを管理すればよくなります。一般的にはクラウド上で管理するため、データを保存するための特別なハードディスクなどは不要です。
・配布と回収がオンライン上で完結
年末調整を電子化すると、申告書類の配布と回収をすべてインターネット上で完結できます。書面で管理していた年末調整では、書類をひとりひとりの従業員に配布し、またそれらを回収する手間がかかりますが、電子化するとこの業務もカットできます。
・従業員側からの確認を大幅減
年末調整ソフトでは、一般的に控除証明書の入力をサポートする機能がつけられています。書面だと従業員が疑問を持てば担当者に直接問い合わせるしかありませんでしたが、電子化すれば、便利な機能がついているため問い合わせが大幅に減ります。
従業員側
年末調整を電子化すれば、従業員側にもメリットが多くあります。控除申請書類を記載する手間が省けますし、控除証明書などを紛失するリスクが減ります。ここでは、具体的にどのようなメリットがあるのか紹介します。
・控除額などの自動計算対応
年末調整ソフトを使うと、配布された控除証明書のデータをそのままインポートすることで、自動的に控除証明書の内容が記載され、控除額などが自動的に計算されます。 書類での管理はひとつひとつ手書きで転記する必要があり、ミスも起こりやすいので、電子化するのがおすすめです。
・必要書類紛失の心配がいらない
従業員は控除証明書などをインターネット上で提出しますが、万が一データを紛失してしまった場合でも、オンライン上ですぐに再取得できます。 書類で管理すると、保険会社などに再発行請求しなければいけませんが、電子化しておけば誤ってデータを消去してしまっても安心です。
・雇用側からの問い合わせを最小限に
従業員は年末調整ソフトを使って控除証明書を提出するので、控除額や控除内容を間違って記載することがほとんどありません。そのため、雇用側から従業員に内容についての確認する機会が少なくなります。
・マイナポータル連携でさらにスムーズに
従業員がマイナポータルで連携することで、必要な控除証明証などのデータを一度に年末調整システムにインポートできます。一括で自動入力されるので、自分でひとつひとつのデータをインポートする必要がありません。
電子化が認められている書類一覧
(700文字) では、どのような書類が実際電子化できるのか、正確に理解している人は少ないと思います。ここでは、現時点で電子化できる書類はどのようなものがあるのか、申告書と証明書に分けて紹介します。
申告書
法律上、電子化できる申告書は次のようなものがあります。 ・給与所得者の扶養控除等申告書 ・従事している給与についての扶養控除等申告書 ・給与所得者の配偶者控除等申告書 ・給与所得者の基礎控除申告書 ・給与所得者の保険料控除申告書 ・給与所得者の住宅借入金等がある場合の所得税額の特別控除申告書 ・所得金額調整控除申告書 ・退職所得の受給に関する申告書 ・公的年金等の受給者の扶養親族等申告書 数多くの申告書が電子化できますが、まずは、扶養控除申告書・保険料控除申告書・基礎控除申告書が電子化できることを知っておくとよいでしょう。
証明書
従来は年末ごろになると、保険会社などから年末調整のために書面の控除証明書が配布されていました。しかし、電子データとして受け取れるようになれば、勤務先や税務署にそのデータを提出できます。電子化できる証明書は以下の通りです。 ・国民年金保険料等控除証明書 ・生命保険料控除証明書 ・地震保険料控除証明書 ・寄付金の受領書 ・寄附金控除に関する証明書(特定事業者発行用) ・特定口座年間取引報告書 ・住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書 会社によってはまだ電子化に対応していない場合もあるので、自分が加入している保険会社や証券会社などに電子化できるかどうか確認が必要です。
年末調整の電子化を導入するには?
年末調整の電子化を導入するには、事前に雇用側と従業員側でそれぞれ準備しておくことがあります。 雇用側は、従業員への告知や年末調整システムの選定を行い、すでにある給与システムとの連携などを考えておく必要があります。従業員側は、控除証明書などをどのように電子データで取得できるのか、チェックしておかねばなりません。
雇用側
年末調整を電子化する際、事前に雇用側が準備しておかなければならないこと3点について解説します。
・従業員へ告知および準備の促し
まずは電子化する前に、従業員にシステムについて説明する必要があります。どのように年末調整の電子化システムを運用していくのか、サポートはどうなるのかなど説明してください。 マイナポータルと連携するには、マイナンバーカードが必要なので、取得する期間として年末調整電子化システム導入までに2〜3ヶ月の猶予を持たせておくようにしましょう。
・システムやサービスの選定
雇用側は、どのような年末調整システム、サービスを導入すればよいのか検討しておかなければなりません。国税庁が提供している年末調整ソフトを使う方法や、同じようなシステムが作られているソフトウェアを使用する方法があります。 システムを導入する場合には、現在自分の会社で使われている給与計算システムなどと連動するかどうかなどのチェックが重要です。できるだけ利便性が上がるように選ぶようにしてください。
・給与計算システムなどとの連携
従業員から提出されるデータの控除証明書などを取り込むには、自社の給与計算システムが電子化されている方が効率よく業務がすすみます。 また、マイナンバーカードを活用してマイナポータルと連携するには、対応できる給与計算システムへの変更が必要です。
従業員側
年末調整が電子化される際に、従業員側が事前に準備しておくことが2つあります。
・提出するためのソフトウェアの準備
年末調整申告書を電子上で作成するには、それに対応したソフトウェアを事前に用意する必要があります。 たとえば、国税庁が提供している年末調整ソフトを使用する場合には、自分のパソコンにソフトをインストールしなければいけません。市販のソフトを利用する場合も、IDやパスワードを一般的に作成する必要があります。 自分の会社がどのようなソフトウェアを使って年末調整を電子化しているのか、確認しておいてください。
・控除証明書の取得方法を把握しておく
どのようにしてデータの控除証明書を取得できるか、確認が必要です。マイナポータルから取得できるものは保険会社の一部だけなので、事前にチェックしておいてください。 マイナポータルから取得できない場合は、保険会社に直接請求しなければなりません。一般的には保険会社のホームページから取得できることが多いです。 マイナポータルを使う際には、マイナンバーカードが必須です。マイナンバーカードを持っていない方は、まずはマイナンバーカードを取得してください。
実際の手続きの流れはどうなる?
年末調整の電子化システムを導入した場合、従業員と雇用側とでどのような連携を取りながら年末調整すればよいのでしょうか。ここでは、お互いのすべき手順に分けて解説します。
従業員がすべき手順
まずは従業員が自分の加入している保険の保険会社などから、控除証明書をデータで取得します。マイナポータル経由か、保険会社のホームページから取得してください。 次に、取得したデータと年末調整控除申告書作成のソフトを使って、年末調整申告書を電子上で作成します。この際、自動的に年末調整申告書の項目欄に記載されるので便利です。
雇用側がすべき手順
従業員が提出した年末調整申告書の電子データと、控除証明書などの電子データを受け取ります。受け取りは年末調整電子化システム上でのやり取りになるため、直接書類を受け渡しする必要がありません。 提出された電子データを給与システムに入力し、その年の税額を計算します。多くの場合では、システムが自動的に計算してくれるので、入力ミスなどが起きず業務の効率化ができます。
年末調整電子化サービスの選び方は?
年末調整システムには、年末調整特化型と労務管理型の給与計算ソフト(一体型)の2種類があります。ここでは、2種類の違いや、年末調整電子化サービスの選ぶ際のポイントについて紹介します。
電子給与明細と一体型か、年末調整特化型か
年末調整システムの一体型とは、年末調整に加えて通常の労務や給与を電子上で管理できるサービスです。そのいっぽうで、年末調整特化型とは、年末調整をする際のみに利用できるサービスです。
給与明細と年末調整のシームレス化が可能なのは一体型
年末調整システムを電子化する際には、給与明細とも連携が取れるサービスを選ぶのがおすすめです。年末調整特化型だと、通常の給与をそのサービス上に入力しなければなりません。 少しでも業務効率をあげるために年末調整を電子化すると思いますが、入力するという手間が増えてしまいますし、ミスにもつながります。 できるだけ雇用側も従業員側も仕事の効率を上げて、人的ミスを減らすためにも、日々の給与や源泉徴収などがわかる給与明細システムと、年末調整システムとを両方利用できる一体型を選ぶようにしましょう。 WEB給与明細書配信システム「PAY-LOOK」と連携できる「年末ヘルパー」を紹介します。
デジタル上で必要な作業が完結するか
年末調整システムを選ぶ際には、電子上で必要な作業をすべてできるかどうかの確認が必要です。電子化する最大のメリットは、手作業を減らした業務の効率化です。しかし必要な情報の取得や連携がデジタル上で完結できなければ、手作業するしかありません。 手作業するとなると、業務が増えてしまいますし、それにともなってミスが発生します。ミスが発生すると、それに対応する業務がさらに増えてしまい、メリットがありません。 どの年末調整システムを導入するか決定するときには、実際に導入した後、各作業が電子上で完結するのかを事前にシュミレーションするのがおすすめです。
まとめ
書面のデジタル化がますます進んでいくなかで、年末調整を電子化すると業務効率が格段に上がります。 従業員のメリットは、データで控除証明書などを管理するので紛失する心配もなく、ややこしい控除申請書を記載する際もサポート機能や金額を自動計算してくれるので、迷いなく申告できます。 雇用側のメリットは、電子上で従業員からデータを受け取り、年末調整システムに反映させるだけで自動的に税額を計算できるので、人的ミスも減って業務時間が短縮、効率化されます。 年末調整電子化システムを選ぶ際には、普段の給与明細システムや労務システムと連携できる一体型を選ぶと、より業務が効率化できるのでおすすめです。年末調整の電子化で得られるメリットはかなり多いため、導入をぜひ検討しましょう。