IT化が進み、パソコンのツールを使用して仕事をしていても、紙で書類を保存している企業も多いのではないでしょうか。紙の利便性や書面を紛失するリスクを考えて、ペーパーレス化できないと感じている方も多いと思います。
そこで今回は、ペーパーレス化が必要な理由と、メリットや導入方法を詳しく解説します。本記事を参考に、社内のペーパーレス化をぜひご検討ください。
ペーパーレス化とは
ペーパーレス化とは、紙媒体を電子データにして保存することです。これまで紙で保存、活用していた文書や資料などを電子化し、コスト削減や業務の効率化を図ることができます。
既存の紙媒体をペーパーレス化するためには、複合機のスキャナーという機能を使用するケースが多いでしょう。スキャナーを使用し、電子化文書に変換したものをデータとして管理すれば、ペーパーレス化を実現できます。
また、新しく作成する書面などは、最初からデジタル化しての作成もペーパーレスにつながると言えます。
- 今ペーパーレス化が必要な理由
今の時代にペーパーレス化が必要な理由は、大きく2つあります。ひとつ目は、環境保全の観点での必要性です。
紙を生産するためには、原料となる森林を伐採しなければなりません。二酸化炭素を酸素に変える森林が減少すると、地球温暖化に影響を及ぼすおそれがあります。
紙の消費量を減らすことで、森林の伐採もおのずと減少することから、環境保全の取り組みとしてペーパーレス化が求められています。
2つ目は、ビジネスにおける必要性です。これまで紙で扱っていた文書を電子化できれば、業務効率化や印刷コストの削減、オフィスの省スペース化を実現できます。
また、紙で扱っていたものをデータとして活用できれば、憶測や勘ではなく、信ぴょう性のあるデータの活用や分析を用いて事業を行っていく、データドリブン経営にも役立ちます。データに基づいた経営には、今やペーパーレス化は必要不可欠といえるでしょう。
- 働き方のスタンダードは変化している
ペーパーレス化が推進される背景には、働き方の変化もあります。これまでオフィスに出社して働くことが当然とされていましたが、近年は働き方改革や、新型コロナウイルスの影響でリモートワークが増加しています。
紙媒体は持ち出しが難しい場合もありますが、電子化したデータがあれば、どこにいてもデータを確認できます。働き方のスタンダードが変化しているなか、柔軟な働き方に合わせたデータ管理の必要性が高まっているのです。
- 政府もDXを推進している
今は企業だけでなく、政府もペーパーレス化をはじめとしたDXを推進しています。DXはデジタルトランスフォーメーションの略語で、IT技術を浸透させ生活をよりよく変化させるという意味です。
経済産業省は2018年、民間企業に向けてDX推進ガイドラインを発表しました。DXの実現やITシステムを構築するためにおさえるべきポイントがまとめられており、政府が主体となってDXの推進を行っています。
つまり、ペーパーレス化は各企業が個別に取り組んでいくべき課題ではなく、国家全体で進めていくべき施策なのです。
ペーパーレス化可能な書類
ペーパーレス化を進めるなかで、電子保存可能なものと、そうでないものを理解しておく必要があります。すべての紙媒体をデータ化すればよいわけではありませんので、注意してください。
ここでは「e-文書法」「電子帳簿保存法」など、法律で電子化が認められている書類をご紹介します。
- 帳簿や決算書類
帳簿や決算書類は、ペーパーレス化が可能です。会社の資産や負債などの総勘定元帳や、売上台帳などの帳簿は、電子化して保存できます。また、決算に必要不可欠な貸借対照表や、損益計算書などの決算書類も電子化して保存可能です。
- 会議資料
会議のときに使用する会議資料などは、電子化して保存できます。会議資料の電子化によって、会議を準備する手間と、印刷コストを削減できるでしょう。
また、会議に参加するメンバーが全員参加しているビジネスチャットがあれば、そのチャットに電子化した資料を添付するだけで、全員が閲覧可能な状態になります。わざわざ会議室に集まる必要なく、個々のデスクからオンライン会議に参加できるでしょう。
- 販促物・パンフレット・カタログ
営業活動に使用するチラシなどの販促物、企業のパンフレットや、製品カタログなども電子化できます。オンラインで営業を行う際や、メールで資料を求められた場合にも、電子化した資料を送ることが可能です。
また、紙媒体の場合は、内容に誤りや変更点があると修正し、印刷し直す工程が必要ですが、電子化すればその手間も必要ありません。データを簡単に修正して、すぐに最新版を提供可能です。
パンフレットやカタログを電子化することは、コストダウンにも非常に大きな効果があります。これらは印刷会社に発注するケースも多いと思いますが、一度データ化してしまえば、大幅にコスト削減できるでしょう。
- ペーパーレス不可の書類に注意
ここまで、ペーパーレス化できる書類をご紹介しましたが、ペーパーレス化できない書類もある点に最新の注意を払っておきましょう。
ペーパーレス化できない書類は、免許証や許可証のように、保有そのものが効果を発揮するものが挙げられます。また、緊急時など即座に閲覧する必要がある、船舶に備える手引書なども該当します。
ペーパーレス化が政府によって進められていることもあり、電子化できない書類は限られています。企業においては、電子化と紙の両立をしながら、電子化できる書類を積極的に電子化してペーパーレス化を図りましょう。
ペーパーレス化のメリット
ここでは、ペーパーレス化によって得られる具体的なメリットをご紹介します。
- スピーディーな閲覧・承認・修正が可能
まず挙げられるメリットが、スピーディーな閲覧・承認・修正が可能な点です。社内で毎日のように行われている営業資料の作成や、稟議などの業務が効率化できます。
紙の場合は、確認のためであっても印刷する必要があります。また、修正が必要な場合はペンで修正箇所を記載しなければならないなど、決してスピーディーとは言えません。
いっぽうで、ペーパーレス化を行って電子化したデータのやり取りであれば、閲覧はもちろん、承認や修正も簡単にスピーディーに行うことができます。場所も選ばないため、出張先などであってもネットワーク環境があれば閲覧・承認が可能です。
さらに電子化したデータのリンクをクリックすれば、ひとつのデータでも複数人同時でアクセスでき、オンラインで承認・修正が簡単に行うことができます。
- 物理的な保管場所が不要
物理的な保管場所が不要なこともメリットです。紙は処分しない限り増え続けるため、場所を取るだけでなく、定期的な整理が必要になります。手間ではありますが、整理を怠れば、保管された書類のなかから必要な文章を探し出すのが大変になるでしょう。
ペーパーレス化によって保管場所を削ることができれば、オフィスを広く見せられます。また、オフィスを移転すれば、紙の保管のために使用していたスペースを削ったぶん賃料を抑えられる場合もあります。
電子化されたデータは、サーバー上に保管できます。データを一括管理することで、過去の文書の検索が容易になることも大きなメリットです。
- あらゆるコストを削減
ペーパーレス化は、あらゆるコストを削減できます。具体的には、紙代や印刷代、郵送代などがあげられます。
なかでもカラー印刷では1枚の印刷に約10円の費用[茂木1] が発生するので、営業資料などを印刷すると、数100円のコストがかかっていることになります。1回当たりのコストはわずかなものでも、トータルで考えると大きなコストの削減になるでしょう。 また複合機のリース代や、印刷する人の人件費などを削減できます。これまで印刷にかけていた時間を別の仕事にあてることができれば、生産性の向上にもつながるでしょう。
- セキュリティ強化
ペーパーレス化は、セキュリティ強化にも非常に効果があります。紙の場合、重要な書類は物理的に引き出しに鍵をつけるなどして、保管している企業も多いでしょう。
書類であれば、物理的に社外などに持ち出すことも可能であり、文書の紛失のリスクがあります。書類を扱う各人に管理が委ねられてしまう懸念があるのです。
電子化することで、重要な書類は閲覧権限やアクセス権限の設定から、閲覧者を制限可能です。閲覧を役員などに限定すれば、不正な持ち出しなどのリスクから重要書類を守れるでしょう。また、ログの管理で、誰が修正したかなどの記録を追跡できます。
長年紙で保管していると文字が読みにくくなったり、紙が汚れたりするおそれもあります。データは劣化することがないため、そういった心配も必要ありません。
- 企業ブランディングを高める
ペーパーレス化は、企業のブランディングを高める効果もあります。企業は環境や教育問題などの社会的責任を果たすべき、という考え方が主流になっています。
そのなかでペーパーレス化を図り、紙を使用しないことは、環境問題への取り組みと考えることもできます。ペーパーレス化に積極的に取り組むことで、企業としてイメージの向上にも効果があるとしたら、まさに一石二鳥でしょう。
とくにSDGsへの取り組みは、採用活動などにもよい影響を与える可能性があります。実際に、就活生の半数以上がSDGsを意識しているというデータもあり、ペーパーレス化の取り組みはホームページなどに記載してアピールすることができるでしょう。
ペーパーレス化が進まない理由
さまざまなメリットがあるペーパーレス化ですが、ペーパーレス化が社内で進まないのには理由があります。企業のペーパーレス化が思うように進まない理由を知り、対策に役立てましょう。
- 社内でのITリテラシーの違い
社内でのITリテラシーの違いは、ペーパーレス化のハードルになります。とくに年配者が多い職場では、ペーパーレス化しても使いこなせるかどうか分からない、むしろ不便になるのではないかと考えてしまう方もいるでしょう。
そんなときには、経営者や管理職が筆頭となり、ペーパーレス化推進の理由を発信して、使いこなさなければなりません。
新しいことを始めるときは、誰でも少なからず抵抗があります。少々勉強が必要でも、業務の効率化につながり、便利だと感じられれば、徐々に社内に浸透させることができるでしょう。
- システム障害への懸念
災害などから生じる、システム障害への懸念がハードルになることもあります。実際に日本は災害が多い国である点も、データとしての保存がリスクと感じてしまうのではないでしょうか。
確かに、データとして保存した場合は、システム障害で一定期間の閲覧が難しくなることはあります。しかし、データが紛失するリスクは非常に低く、万が一紛失してしまってもバックアップデータから復元することができます。
紙の場合は、災害時には紛失のリスクがあります。また紙は燃えたり、濡れたりすると閲覧が難しくなることもあるため、扱いには細心の注意を払う必要があるでしょう。
- 慣れ親しんだ紙の利便性
高齢の世代は長年紙を使用して業務を行ってきたため、紙の扱いに慣れていることがほとんどです。よって、慣れ親しんだ紙の利便性が、ペーパーレス化のハードルになることがあります。
紙の利便性は、何といっても直感的なメモや書き込みができることです。電子化されたデータであっても気軽にコメントを書き込むことができる、などの情報を共有し、不便ではないと感じさせることが大切でしょう。
- 初期の導入コスト
経営者がペーパーレス化を進めにくい理由のひとつに、初期の導入コストが挙げられるでしょう。ペーパーレス化をするためには、当然データを保存するためのインフラ環境の整備や、システムの導入が必要になります。
また、会社の秘匿情報を扱うため、セキュリティ対策を十分に行わなければなりません。これらを進めるとなると、初期の導入コスト発生は避けられないでしょう。
しかし、瞬間的に発生するコストより、長期的な視点でメリットを得られるという視点での判断が大切です。長期的に考えれば、損失ではなく、むしろ早ければ早い方がコストを抑えることができるといえます。
ペーパーレス化推進のポイント
ペーパーレス化にあたって、押さえておくべきポイントを確認しましょう。
- ペーパーレス化の目的や意義を明らかにする
ペーパーレス化の実現に向けて、目的や意義を明らかにすることは重要です。ただやみくもに便利だからといっても、目的や意義が明確でなければ、わざわざ手間暇をかけてペーパーレス化をしたいとは考えないでしょう。
現状の課題を解決するためにペーパーレス化が必要であることを示すと、目的と意義が明確になりやすいです。メリットだけでなく、社内のITリテラシーなども考慮したうえで、本当に必要であるかを整理しましょう。
- ペーパーレス化について社内理解を深める
実際に社内でペーパーレス化を進める前に、ペーパーレス化がどんなものか、どんなメリットがあるかなど、社内理解を深める機会を作りましょう。
ペーパーレス化したあとに、業務をこなすのは従業員です。各従業員がペーパーレス化の必要性を知っている状況を作ることが理想です。
しっかりと必要性を伝えずに、トップダウンではじめては、従業員に浸透せずに失敗してしまう可能性もあります。経営の立場だけではなく、従業員にとってのメリットを説明し、コンセンサスを獲得できれば、より活発的にペーパーレス化を推進できるでしょう。
- 導入前に書類を整理整頓しておく
導入する前に、業務で使用している書面の整理整頓が大切です。社内には契約書類や会議資料、営業で使用するチラシやパンフレットなど、さまざまな書類があると思います。
それらが先述したペーパーレス化できる書面であるかどうか確認し、分類を行いましょう。分類後は、書類をカテゴライズし、必要なときにすぐ必要な書類を取り出せる状態を作ってください。
- 従業員へのITリテラシー教育
社内の従業員へのITリテラシー教育もポイントです。近年は、誤ったパソコン操作で、ウイルスに感染するリスクもあります。各データに対する権限や、外部への情報流出を防ぐためのセキュリティ対策を行うと同時に、従業員へのITリテラシーの向上も図りましょう。
- 段階的にペーパーレス化を行う
一気にペーパーレス化を行うのでなく、一部署やプロジェクトなど、段階的に行うことがおすすめです。一気にペーパーレス化してしまうと、従業員の負担や業務の混乱を招いてしまう可能性があります。
段階的に行うことによって、ペーパーレス化の課題もみえてくるでしょう。その課題を解決するために工夫を凝らすことで、業務の効率化などにつなげられます。
社内のITリテラシーに違いがある企業は、取引先の企業とやり取りする書面から導入をはじめる方法があります。徐々に慣れていけるような環境を作ることで、メリットを実感し、社内全体のITリテラシーの向上も見込めるでしょう。
- トラブル時に備えてバックアップを取る
データの消失などのトラブル時に備えて、バックアップを取ってからペーパーレス化を進めるようにしましょう。
先述したように、システム障害が発生するとデータを閲覧できない状態になり、業務に支障をきたす可能性があります。定期的にバックアップをしておくと、万が一データが消えてしまったときでも安心です。
- ペーパーレスに特化したソフトウェアやサービスを利用する
ペーパーレス化に特化したソフトウェアやサービスを利用することで、ペーパーレス化が推進できる場合があります。
たとえば、インターネット上でデータを共有・保存できるオンランストレージや、手書き文字をデジタルデータとして認識してくれるOCRツールなどがあります。
まとめ
今回は、ペーパーレス化が必要な理由やメリット、導入方法を詳しく解説しました。政府が推進していることからも分かるように、ペーパーレス化はコストの削減やセキュリティ強化など、たくさんのメリットがあります。
ペーパーレス化のハードルはいくつかありますが、すべて対策可能です。トップダウンで進めるのではなく、社内のITリテラシー教育や、ペーパーレス化への取り組みの理解を深めたうえで行うことがポイントです。
決算書類や会議資料、パンフレットなどのペーパーレス化できる書類は、積極的にペーパーレス化していきましょう。