(2025/09/02更新)
今年の年末調整業務は、以下の5つのポイントが大きく変わります。
- 基礎控除額の段階的引き上げ
これまで一律48万円だった控除額が、所得金額に応じて58万円~最大95万円まで拡大されます。 - 給与所得控除の下限引き上げ
最低控除額が55万円から65万円に。パート・アルバイト層の住民税非課税ラインは「103万円」から「110万円」前後になります。 - 特定親族特別控除の新設
19歳以上23歳未満の扶養親族を対象に、最大63万円の控除が新たに創設。 - 扶養親族・勤労学生等の所得要件引き上げ
一般扶養親族の所得要件が48万円→58万円へ、勤労学生は75万円→85万円へ緩和。 - 住宅ローン控除の「調書方式」導入
金融機関が税務署へ直接データ提出する「調書方式」が導入、従業員本人の証明書提出が不要なケースが増えます。
基礎控除の段階的引き上げ(58~95万円)に注意
令和7年(2025年)分の年末調整から、基礎控除の金額が大きく見直されます。これまでは一律48万円でしたが、所得金額に応じて58万円から最大95万円まで段階的に引き上げられる仕組みに変わります。
制度の概要
基礎控除は、すべての納税者が対象となる控除制度です。改正後は、以下のように合計所得金額に応じて控除額が変動します。(令和7・8年分のみの特例措置)
- 合計所得金額132万円以下:95万円
- 合計所得金額132万円超~336万円以下:88万円
- 合計所得金額336万円超~489万円以下:68万円
- 合計所得金額489万円超~655万円以下:63万円
- 合計所得金額655万円超~2,350万円以下:58万円
- 合計所得金額2,350万円超~2,400万円以下:48万円
- 合計所得金額2,400万円超~2,450万円以下:32万円
- 合計所得金額2,450万円超~2,500万円以下:16万円
- 合計所得金額2,500万円超:適用なし
つまり高所得者ほど控除額が縮小し、所得再分配を強める仕組みに見直されました。
人事実務への影響
人事担当者が注意すべき点は、「給与支払報告書」や「扶養控除等申告書」に基づく控除額の判定が従来より複雑になることです。特に、役員や高額給与を受け取る従業員については、控除額が従来の48万円ではなく、減額された金額が適用される可能性があります。給与計算ソフトや年末調整システムが最新の改正に対応しているか、必ず確認が必要です。
また、基礎控除の改正は「給与所得控除の見直し」(最低65万円)とセットで行われるため、従業員の課税所得がどのように変動するかを正しく理解しておく必要があります。
実務対応のポイント
- 年末調整システムの更新状況を確認:控除額テーブルが最新であるかを要チェック。
- 高額所得者への周知:一部従業員は「控除が減ったことで税負担が増えた」と感じる可能性があるため、改正の趣旨を社内で説明することが望ましい。
- 他の控除改正との併せて把握:扶養控除や特定親族特別控除など、同時改正があるためトータルでの影響を確認。
給与所得控除の下限引き上げ(一律65万円)
令和7年(2025年)分の年末調整から、給与所得控除の下限額が一律65万円に引き上げられます。従来は最低55万円でしたが、10万円の増額となります。給与所得控除は、給与所得者に認められる「必要経費の概算控除」であり、給与所得者の課税所得を計算する上で欠かせない制度です。
この改正により、年収190万円以下の低所得者層を中心に手取り額が増えることになります。例えば、パートやアルバイト、短時間勤務の従業員にとっては課税所得が減少するため、実際の税負担は軽くなります。一方で、給与水準の高い従業員については、従来から上限額の適用を受けているケースも多いため、影響は限定的です。
人事担当者にとって重要なのは、住民税非課税ラインの目安が変わる点です。従来は「年収103万円」が一つの基準でしたが、基礎控除と併せた見直しにより「年収110万円」が目安となります。これにより、配偶者控除や扶養控除の判定に影響が及ぶ可能性があるため、従業員からの問い合わせが増えることが想定されます。※(単身・給与のみのケース)住民税は110万円まで非課税、所得税は160万円まで非課税
実務面では、給与計算システムの更新を確認することが最優先です。また、従業員説明用の資料や社内FAQを整備しておくと、年末調整シーズンの混乱を避けやすくなります。
特定親族特別控除(19歳以上23歳未満対象)の新設
令和7年分から新設される「特定親族特別控除」は、人事担当者にとって新たに押さえるべき重要な制度です。対象は19歳以上23歳未満の扶養親族で、合計所得金額が一定額以下の場合に、最大63万円の所得控除が適用されます。
この制度は、教育費や生活費の負担が大きい子育て世帯を支援する目的で導入されました。19歳から22歳といえば、大学生や専門学校生が多い年代です。所得に応じて『扶養控除』と『特定親族特別控除』のどちらかを適用する仕組みとなっており、親の税負担を軽減する効果があります。
ただし、この控除は9段階の仕組みで所得額に応じて控除額が逓減するため、制度の内容を正しく理解していないと誤った処理をしてしまうリスクがあります。また、従業員が対象親族の所得見込みを誤って申告するケースも想定されるため、年末調整時の確認作業は従来以上に重要になります。
人事実務上のポイントは、新しい申告書類の導入です。令和7年からは「給与所得者の特定親族特別控除申告書」の提出が必要となり、従業員への周知が不可欠です。書式の追加やシステム対応の有無を確認し、早めに社内周知を行っておきましょう。
扶養親族等の所得要件の緩和(48→58万円、勤労学生 75→85万円)
令和7年からは、扶養親族の所得要件が48万円以下から58万円以下に引き上げられます。これに伴い、扶養親族、同一生計配偶者、ひとり親の子は58万円以下が要件となります。
また、配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額は58万円超〜123万円以下(従来は48万円超〜133万円以下)に見直されます。さらに「勤労学生控除」についても、合計所得金額の上限が75万円から85万円に緩和されます。
この改正により、これまで扶養から外れていた学生アルバイトやパート勤務の家族が、再び扶養親族として認められるケースが増える見込みです。特に、仕送りや学費負担をしている従業員世帯にとっては大きなメリットとなり、扶養控除や配偶者控除等の適用範囲が広がります。
一方、人事担当者にとっては「扶養控除等(異動)申告書」の判定が従来より複雑になります。従業員の家族の収入状況を正しく把握する必要があるため、従業員からの申告内容を丁寧に確認する体制が求められます。特に、アルバイトやパート収入を持つ大学生などは、年末時点での所得見込みを誤認することが多く、誤った申告が発生しやすい点に注意が必要です。
実務対応としては、年末調整時に「今年の家族の収入は扶養判定に影響する可能性がある」と早めにアナウンスしておくことが有効です。従業員にとっても誤解が多い分野なので、社内FAQや事前案内を整備しておくと混乱を防げます。
住宅ローン控除の「調書方式」導入による手続き簡素化と対応の注意点
令和7年分の年末調整から、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の手続きが「調書方式・証明書方式の併用」へ移行します。従来の「証明書方式」では、従業員が金融機関から取得した「年末残高証明書」を勤務先に提出していましたが、調書方式では金融機関が直接税務署に残高調書を提出する仕組みとなります。
これにより、該当する従業員にとっては証明書の提出が不要となり、手続きが簡素化されます。ただし、すべての金融機関が直ちに調書方式に対応できるわけではなく、当面は証明書方式と併用される経過措置が取られます。そのため、人事担当者は「従業員ごとにどちらの方式か」を確認する必要があります。
また、調書方式の導入により、年末調整システムや給与計算ソフトの改修が必要となります。特に、電子データでの情報連携(マイナポータル経由など)が活用されるケースも増えるため、事前にベンダーやシステム担当部署と連携し、最新対応を確認することが欠かせません。
実務上のポイントは次の通りです。
- 従業員ごとに提出方式を確認し、案内を誤らないこと。
- 新旧方式の併用期間に備えたフロー整備を行うこと。
- システム改修・検証の早期着手を進めること。
この改正は、年末調整業務の効率化につながる一方で、過渡期には混乱を招く可能性もあります。人事担当者は従業員への周知を丁寧に行い、トラブル防止に努めることが求められます。
【調書方式の補足解説】
「調書方式」とは、住宅ローン控除申請時に、従来必要だった『銀行発行の残高証明書』の提出を省略し、銀行が直接税務署に必要情報を電子データで送信する仕組みです。
これによって、会社側では従業員ごとにどちらの方式かを確認した上で、適切な案内・システム設定が必要となります。
まとめ
令和7年からの年末調整は、基礎控除の段階的引き上げ、給与所得控除の見直し、特定親族特別控除の新設、扶養要件の緩和、そして住宅ローン控除の調書方式導入と、大きな制度変更が同時に始まります。これにより、人事担当者の確認作業や従業員からの問い合わせ対応は複雑化することが予想されます。
当社が提供する年末調整支援サービス「年調ヘルパー」は、従業員が画面上で「はい」「いいえ」と答えていくだけで、最新の税制改正に対応した必要書類を自動的に作成できる仕組みを備えています。改正内容を従業員自身が正しく理解していなくても、システムが判定・ガイドするため、人事担当者は提出書類の不備チェックや改正内容の説明に追われることが大幅に減ります。
改正のたびに業務フローや説明資料を一から整備する必要もなくなり、確認作業の負担軽減と業務効率化を同時に実現できます。令和7年の年末調整を安心して迎えるために、ぜひ「年調ヘルパー」の導入をご検討ください。