2025年 10月 16日

    2025年税制改正が労務実務に与える影響

    ― 給与・年末調整・住民税のポイント解説 ―

    1. はじめに

    2025年(令和7年)の税制改正には、企業の労務実務に関連する変更が含まれています。特に給与計算、源泉徴収、年末調整、住民税通知といった日常業務に直結する分野に影響が見込まれます。

    本コラムでは、労務担当者が押さえるべき改正ポイントを整理し、実務対応の方向性を解説します。
    ※本稿は執筆時点で公表されている政府・自治体資料等に基づく内容です。最終的な制度詳細は国税庁・自治体の公式情報をご確認ください。


    2. 主な改正ポイント

    (1) 定額減税の影響(2024年改正の継続処理)

    2024年に導入された定額減税は、所得税・住民税に適用されました。2025年も2024年中に十分に減税を受けられなかった人への「不足額給付」や、住民税側での自治体対応など、事後処理や関連業務が続くケースがあります。


    (2) 特定親族特別控除の創設

    2025年分所得税から、新制度「特定親族特別控除」が創設されます。

    対象となるのは、以下の要件を満たす親族です:

    • 納税者と生計を一にする 19歳以上23歳未満 の親族(配偶者・青色事業専従者を除く)
    • 合計所得金額が 58万円超123万円以下(給与収入ベースで123万円超~188万円以下)

    控除額は最大63万円で、所得水準に応じて逓減方式で決まります。扶養控除の対象となる親族(所得58万円以下)は本制度の対象外です。

    この控除の適用方法については、年末調整での対応が検討されていますが、運用の詳細次第で、確定申告対応が必要となる可能性もあります。


    (3) 課税ベース見直しの動き

    今回の改正で、所得税の基礎控除と給与所得控除の最低保障額が引き上げられ、所得税の課税ベース(課税最低限)が大幅に見直されます。これは給与計算上の源泉徴収税額に直結するため、システム側でのロジック修正が必須です。


    (4) 住民税への反映

    税制改正内容は翌年度の住民税へ反映されます。特別徴収税額通知の様式が一部変更される可能性があり、通知の読み替えに慣れる必要があります。

    また、副業・兼業者の増加により、住民税を「普通徴収」に切り替えるケースが増えています。従業員からの相談対応や社内ルール整備をあらかじめ進めておくと安心です。


    3. 実務上の対応ポイント

    (1) 年末調整

    • 特定親族特別控除に対応した申告書の確認が必要になります。
    • 定額減税の過不足精算により、源泉徴収票の摘要欄に控除済額や控除外額を記載する対応も想定されます。

    (2) 給与計算・明細発行

    給与明細には、定額減税の趣旨により、所得税減税額は給与明細に必ず明記することが法令で義務付けられています。控除欄や備考欄など、従業員が減税額を確認できるような表示が必須です。

    例:

    • 課税所得 300,000円
    • 所得税額 5,000円
    • 定額減税控除 ▲3,000円
    • 所得税差引額 2,000円

    このように表示すれば、従業員が手取り減少の理由を理解しやすくなります。

    (3) システム対応

    給与計算・年末調整システムの改正対応状況を確認することは必須です。クラウド型システムの場合でも、自動更新範囲がどこまで含まれるかを確認し、必要ならテスト運用を行ってください。

    (4) 従業員からの問い合わせ対応

    想定される質問例:

    • 「扶養控除と特定親族特別控除の違いは?」
    • 「定額減税は2025年も続くの?」
    • 「住民税の通知内容が変わったのはなぜ?」

    FAQを事前に整備し、現場で即答できるようにしておくと対応がスムーズです。


    4. 労務担当者が今から準備すべきこと

    • 社内説明資料・FAQの作成
    • 年末調整業務フローの見直し
    • システム改修スケジュールの確認とテスト運用
    • 顧問税理士・社労士・ベンダーとの連携強化
    • 社内研修や従業員説明会の実施

    これらを早めに着手することで、繁忙期を迎えても余裕を持った対応が可能となります。


    5. まとめ

    2025年税制改正は、「給与計算」「年末調整」「住民税」という労務の根幹業務に影響を与えます。

    従業員にとって控除額の変化は手取りに直結するため、正確な理解と説明が信頼構築につながります。制度改正を単なる負担ではなく、業務効率化やDX推進のきっかけと捉え、労務業務をアップデートしていきましょう。